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「子育て生活応援事業」って(その3、現金給付と現物給付)

 では、今回は現物給付の話です。

1.現物支給は損失補填か?

 9月議会での豊田議員の質問に対し、市長の答弁の中で、本(「子育て支援の経済学」)を読んだ、と前置きして「子育て支出の低減は、損失補填のようなものですので・・・」というような発言がありました。録画に失敗していたので正確な文字起こしできていませんが。

 そんなこと、本のどこにも書いてない。「損失」って何?

 その答弁からは、

「だから子育て支出の低減は、出生数増加の動機になりませんよ」

というニュアンスが感じられたのですが、おそらく本の内容をお忘れになっているのだと思います(もしくは読んでいない)。

 

 また、山本武志議員が「1億5千万円で給食費の無償化ができる。他にも公共施設の無償化や所得制限の撤廃ができるのではないか?」という質問に対しても、市長は答弁で「給食費の無償化をしたところで、出生数が増えるのかなというと、そこは増えないと思います。

 「何かというと」と続けるので、理由を説明しはじめるのかと思ったのですが、この後の答弁は本当に意味不明だった。

「子育てをしている今の世代にとって、子どもを産み育てることは経済的な負担でありますし、キャリア、仕事を辞めたり休んだりしなくちゃいけませんので、そういったマイナスのイメージが多いと思います。そうじゃなくて、何とか子どもを産み育てることが楽しいなあとか幸せだなあと、儲けたなあと思っていただけるような世界にならないかなと。私たちの年代的には、そんなことにお金を渡すのはおかしいと思うかもしれませんけれども、実際に今の子どもたち、私たちの20年前から初任給は上がってないというふうに思っています。そうした中で結婚して引っ越しして、子どもまでは産めないよということにならないような仕掛けを作りたいという思いが非常にありましてそういうことをしています。ですから、子どもを産んで育てることがすごく良いことで楽しいなということにならないかなということで、この政策と合わせてそういう子育てのYouTubeなんかも発信しながら、そういう産み育てることがプラスになるような、で、後押しするような政策を出したい、ということでこの政策を出させていただきます。」

 まず、結局、給食費の無償化が出生数を増やさないという理由を言っていない。言えないんだと思う。何もないから。

 本の中の実証研究で言われていることは真逆で、「現物支給(あるいは子育て支出の低減)は、子どもを持つことの機会損失(≒経済的損失)を抑える」、だから「出生数の増加に効く」

 

 市長の答弁の中で、さらに良くないのは「仕事やキャリアを辞めたり、休んだりしなくちゃいけない」という発言。

 そして、「儲けたなあ」と来るんですが、これは「(子どもを産むと、仕事を辞めたり休んだり大変だけど、市からマイナポイントをもらえて)儲けたなあ」という意味?。

 若い世代の市民をこんなふうに見ているというのは本当に嫌なんだけど(山本議員が怒るのも無理はない)、それだけじゃなくて、「出生数を増やすにはどうしたらよいか」について、なんにも調べていない、何も分かっていない、ということが丸わかりになるのがガッカリなんです。

 なんで丸わかりかというと、仕事や育休制度、保育サービスと出生数の関係って結構調べられていて、本を読んだり、職員さんやいろんな人と普通に話をしていたら、あんなピントがずれたことを言わないはずだから、です。

 仕事や育休制度、保育サービスと出生数の関係は少し複雑なんですが簡単に言うと、

・男女の育休制度の活用は出生率アップにプラス。

・仕事を辞めなくてもいいように、低廉な保育サービスを提供することは出生率アップにプラス。

・女性の子育て負担を軽減することも出生率アップにプラス。

 当たり前のことですけど、男女の育休制度活用を促進するのも行政の仕事。出産育児を理由に仕事を辞めないでいいような社会をつくっていくのも行政の仕事。女性の子育て負担を軽減するサービスや啓発活動も行政の仕事。

 だから「仕事やキャリアを辞めたり、休んだりしなくちゃいけない」社会を前提に、「大変だけど市からマイナポイントを配るから幸せを感じてね」は行政の仕事ではない。

 ここも基本理念の問題かもしれません。

 

2.子育てでお金がかかるのは何歳くらいのとき?

 今回、なぜ0歳~2歳の子どもへの給付になったかというと、アンケートで「経済的支援があるとよい年齢は?」という質問に対し、「妊娠期から2歳まで、という回答が全体の約3/4だから」というのが根拠になっています。

 さて、子育てでお金がかかるのは何歳くらいの時期なんでしょうか?これも内閣府や総務省、民間でいろいろデータが有ります。

 どのデータも18歳までで一番お金がかからないのが0~2歳。3歳以降は教育費が入ってくるので子育て支出が一気に増えます。

 現実はそうなのに、

 アンケートで経済的支援をしてほしいのが妊娠期~2歳。

 これは何故?

 答えは持っていないですが、多分、アンケートでは「妊娠期」が入っているのが一つのポイント。おそらく出産費用の補助へのニーズが入っている。アンケートの年齢区切りは出産後の0歳~2歳区分で見たかったですね。また、いっぱい買い物をしたイメージもあるんだと思う。服とかベビーベッドとかベビーカー、チャイルドシートやチャイルドシート。

 これから子どもを持つ人に言いたい。

「それでも本当にお金がかかるのは3歳以降ですよー。」

 どっちにしても、

 一番お金がかからない3年間に給付するのが、本当に応援になるのでしょうか?

 もっと言えば、現金(マイナポイント)を給付する場合、給付金の使途は親の裁量に任されます。親を信用するかどうかは別として、現実的には、給付金の100%が期待される子育て支援に支出されるかどうか誰にも分かりません。

 

 以上、2回分ほど、ややこしい話をお付き合いいただいて有難うございました。

 次は軽く「バラマキ論」を。

 

では。

(つづく)

 

【追記①】

市長の答弁の中で、

「私たちの年代的には、そんなことにお金を渡すのはおかしいと思うかもしれませんけれども、実際に今の子どもたち、私たちの20年前から初任給は上がってないというふうに思っています。そうした中で結婚して引っ越しして、子どもまでは産めないよ・・・」というのが有りますよね。

 この「20年前から初任給は上がってない」というのはファクトなんでしょうか?

 賃金構造基本統計調査(厚生労働省)によれば、初任給は1990年代後半以降、緩やかに上昇しています。2011~2014年ごろに下落するのですが、その後また上昇傾向に戻ります

 消費者物価指数(総務省)を用いて物価動向を勘案すると、1990年代後半から緩やかな上昇傾向、2011年以降2014年ごろまで下落か横ばい、その後ここ数年は上昇に転じています

 物価動向を勘案した初任給が下落するのは、1980年代前半にもありましたが、全体としては上昇傾向には有りますので、1970年代と比べると現在は30~50%上昇しています。

 失われた30年、というような文脈の中で「平均年収が下がった」という話が出てきます。が、これは非正規雇用やパート、シニア雇用を含んだ年収を取り上げている場合がほとんどです。なので、平均年収で議論するのはなかなか難しい(国政選挙でポジショントークなりやすい)のですが、初任給だとクリアに分かりやすいですね。

 ということで、「20年前から初任給は上がっている」がファクトです。

 本当じゃない話まで持ち出して議案を通そうとするのは、良くないと思います。

 

【追記②】

 上の私の文中で「女性の子育て負担」という書き方はおかしいでしょ、という話はもちろん分かっています。

 子育てでジェンダーバイアスがあって女性が子育てに負担がかかりがちなことは社会のあるべき姿ではありません。が、現状認識としてはここがスタートラインになる。さらに言えば、ジェンダー平等は費用対効果の優れた少子化対策なんです。

 

 

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